明けましておめでとうございます!令和になって初めてのお正月を健やかにお迎えのことと思います。採用の業務に関わって27年、教育は20年。個人事業主から上場企業まで、ありとあらゆる業種2,000社を見てきた経験の中で、「令和の時代に求められる教育・育成について」思うことを記していきたいと思います。
私にとって、平成最後から令和元年の年はTWI(※1)トレーナー講座4講座を受講するというのがひとつの命題でした。なぜそれをしようと思ったか?人事は毎年のように新しい概念が(特にアメリカで生まれ)流行り、新たな研修内容が開発されていきます。結果、流行り廃りが発生してしまう。そんな中で、日本で70年続くTWIというものはどういうものかということを学びたいということが目的でした。
ご一緒に受講した企業の方々はさまざまな業種の方がいらっしゃいましたが、圧倒的に製造業の方が多い。それも名だたる企業の方々に囲まれました。皆さんが一様にTWIの素晴らしさをおっしゃる。それが成功体験につながっていることが感じられます。そして、日々の業務の中でどのように活きているか、活かしてきたか、さまざまな具体例をお伝えいただきました。私は常々、社内で共通言語を持つ、その言葉をとおして皆の頭の中の映像が一緒になるということはとても大事なことだと思っているのですが、この“TWI”の単語を中心とした職場があり、日々の生活の中で取るべき行動が映像になっている方がたくさんいらっしゃるように思いました。毎年ある一定の人に型を伝え、それを継承し、“良い”とされる認識が皆の共通項目である。ある種の評価制度を回すよりも、TWIを社内に浸透させることの方が事業を安定させる行為につながるのではないかという思いにも至りました。「型にはまる」「型を追求する」ということは“守破離”(※2)という言葉があるように、日本人に馴染みのある、しっくりくる思考(志向)のようにも思います。
この70年の歴史の中、「では、この変化の激しい時代にどんな教育・育成をしなければならないか?」ということを検討されている方も多くいらっしゃるのではないかと思います。私もこの3年ほど、その質問の明確な解を得たいと思ってきましたが、令和元年はかなり暗中模索しました。流行りの“ティール組織”が気になれば、本に紹介されているザッポス社(※3)をアメリカまで見学に行き、本に書かれたこと、人の言うことを鵜呑みにしない、自分で確かめたいという一心で10人ほどの方にインタビューさせていただき、それを感じてきました。インタビューした人からよく耳にした言葉は「family」。企業が大切にしていることをとことん話し、個人の希望に徹底的に寄り添っている、透明性が高い組織であることが分かりました。最先端の人事戦略ともてはやされているように感じる“ティール”にも日本の昭和の時代の雰囲気を感じるところもありました(陽明学(※4)でいうところの“良心”がそこここに溢れていました)。
一方で500年続く“陽明学”がこの数年気になっており、日本で同業の方々と勉強してきました。去年は中国に行き、王陽明の功績を確認してくる機会に恵まれました。帰国した時に手に取った本のひとつに『弓と禅』があります。著者は大正から昭和初期、日本滞在中に弓道を学んだドイツ人哲学者。師匠は明確な解を出しません。「考えるのをやめなさい。自我を捨て、心を無にして的を射よ」と説く師の言葉を頭で理解しようとして混乱。その後、“稽古三昧”し、道に通じる話。この“無心”という言葉が頭に残りました。日々、自分は“無心”になることがあるのだろうか?あれやこれやの有心、邪念にとらわれていることを実感します。
海外探索の一方で、日本の探索にもいそしみました。中江藤樹記念館、松下資料館、稲盛ライブラリー…。残念ながら、ご本人達にはお会いできていませんが、その地域の方やご案内してくださる館内の方々からも見聞きするものが、「私はこうありたい」と気づかせてくれる旅でした。
「AIの存在」「資本主義経済の終焉」等、時代の潮目を感じます。今求められるスキル(ファイナンス、マーケティングやストラテジー等)の習得も引き続き必要だと思います。こちらは数年間、集中して学習すれば、ある程度のスキルと知識を身につけることができます。一方で哲学、美術、音楽、歌舞伎、和歌、自然科学・・・、リベラルアーツ(※5)と呼ばれる分野は、極端な話、何十年も学び続けなければ身につかない学問。解のないものに向き合う必要がある学問といえるかもしれません。戦前までの日本の教育は子供に論語等の素読(※6)を課していました。ただただ無心に素読する。大人になり、あるタイミングで「学んでいたのはこれだ!」と気づくことができる長期的な学問。残念ながらそのような教育は、今は絶滅に近いものがありますが、現在においては、会社という空間においても、このような長期的な学習の機会を演出する必要があるのかもしません。
今、顧問先において「〇〇大学」と称して、短期学習と長期学習を組み合わせた社内学校の設立のお手伝いをしています。その成果が出るのは数年どころか数十年後になるかもしれませんが、それが花開くであろう頃をイメージして、今からやる必要があると思って取り組んでいます。その中で答えのない「私はこうありたい」と問い続けるのだと思います。ご興味をお持ちの方がいらっしゃれば、ぜひご一緒に、今から取り組みましょう!
※1:TWIとはtraining(訓練)within industry(企業内の)for supervisors(監督者のための)のことである。日本では、第二次世界大戦後,占領軍によりもたらされ,労働省(現在の厚生労働省)によって広められた。製造業を中心に戦後の高度経済成長を支えた考え方と言われている。現在ではアメリカで逆輸入され、医療やサービスの世界にも広がっている。以下、4つの考え方に基づいて構成されている。JI(Job Instruction)仕事の教え方、JM(Job Methods)改善の仕方、JR(Job Relations)人の扱い方、JS(Job Safety)安全作業のやりかた。
※2:日本の茶道や武道などの芸道・芸術における師弟関係のあり方の一つであり、それらの修業における過程を示したもの。日本において芸事の文化が発展、進化してきた創造的な過程のベースとなっている思想で、そのプロセスを「守」「破」「離」の3段階で表している。「守」支援のもとに作業を遂行できる(半人前) ~ 自律的に作業を遂行できる(1人前)。「破」作業を分析し改善・改良できる(1.5人前)。「離」新たな知識(技術)を開発できる(創造者)。
※3:ラスベガスに本拠を構える、靴を中心としたアパレル関連の通販小売店。従業員1,500人ほど。従来型の階層型組織を、いくつもの「サークル」により構成されるよりフラットな組織に変革。企業運営における課題ごとに「サークル」が形成され、その中で構成員各自が権限と責任をもって仕事を遂行することから、「上司不在」の経営体制と評される。コールセンターの顧客接点を大切にし、1コールの最長時間は10時間半を誇る。
※5:日本語の“藝術”という言葉はもともと、明治時代に啓蒙家の西周によってリベラル・アートの訳語として造語されたものである。
※6:音読と異なる。音読は声に出して文を読むことで、目の前には文字が必要。一方、素読で文字は使わない。字を目で追うのではなく、先生の声を耳で聞き、それをオウム返しする。音読は一人でできるが、素読は先生と自分、一緒に声を合わせる仲間が必要。
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